ランナーのサプリメント ─ 売り場の定番が、公的な分類でどこにいるか
先に、いちばん引っかかりそうなところから書きます。
BCAA と HMB は、公的な分類で格下げされています。 オーストラリアスポーツ研究所(AIS)のサプリメント分類で、この2つは Group B(証拠が出始めている)から Group C(利益を科学的証拠が支持していない、または判断できるだけの研究がない)へ再分類されました。日本のランナー向け売り場でもっとも目にする成分のひとつです。
同じ Group C には マグネシウム(酸化マグネシウム)、ビタミンE、チロシン、α-リポ酸 も入っています。
⚠️ 念のため。Group C は「効かないと証明された」ではありません。「支持する証拠がない」と「まだ研究されていない」が同じ箱に入っています。飲んではいけない、という意味でもありません。ただ、強い証拠があるつもりで買っているなら、そこは事実と違うというだけのことです。
この記事は、その「どこにいるか」の地図です。カフェイン・鉄・プロテインは扱いが長くなるので、それぞれ個別の記事にしました。
なお本記事は栄養や医学の助言ではありません。持病のある方、妊娠中・授乳中の方、薬を服用中の方は医師や薬剤師にご相談ください。
分類は4つ
AIS の Sports Supplement Framework が使う ABCD 分類です(2026年9月7日に公式サイトで確認)。
| 分類 | 位置づけ(AISの定義より) |
|---|---|
| Group A | スポーツの特定の場面での使用に、強い科学的証拠がある |
| Group B | 証拠が出始めている、または結果が割れている。特定の状況では検討に値する |
| Group C | アスリートにとっての利益を科学的証拠が支持していない、または判断できるだけの研究がない |
| Group D | 禁止されている、または禁止物質が混入するリスクが高い |
この分類は判断材料であって、あなたに効くかどうかの答えではありません。AIS自身、Group A を「特定された選手が、根拠のあるプロトコルに従って使う」ものと位置づけています。
売り場でよく見るものを当てはめると、こうなります。
- Group A: スポーツドリンク、ジェル、電解質、プロテイン(分離タンパク質)、カフェイン、鉄、ビタミンD、カルシウム、亜鉛、葉酸、クレアチン、β-アラニン、硝酸塩、重炭酸ナトリウム、グリセロール
- Group B: フィッシュオイル(オメガ3)、コラーゲン、クルクミン、ビタミンC、プロバイオティクス、プレバイオティクス、メントール、ケトン、マルチビタミン、L-カルニチン
- Group C: BCAA、HMB、マグネシウム、ビタミンE、チロシン、α-リポ酸
- Group D: エフェドリン、DMAA、DHEA、SARMs、テストステロンブースター類、マカの粉末、コロストラム(初乳)
Group D にマカやコロストラムが並ぶのは意外かもしれません。ただしこれは「その食品自体が禁止物質だ」という意味ではありません。AISはこの群を「禁止されている、または禁止物質の混入リスクが高い」と定義しており、どちらの理由で載っているかまでは一覧からは読み取れません。
「強い証拠がある」の中身を開くと、条件が具体的
Group A のうち、パフォーマンスを直接押し上げる側に挙がっているのは6つです(世界中の物質から6つだけが有効と決まったのではなく、AISがこの欄に載せているのが6項目、ということです)。
IOC の合意声明(Maughan ら、British Journal of Sports Medicine 2018)は、成分ごとにどんな運動で効果が確認されているかを書いています。読むと、条件がかなり具体的だと分かります。
| 成分 | IOC合意声明(2018)が示す条件 |
|---|---|
| クレアチン一水和物 | 高強度運動の150秒未満、とくに30秒未満で最も顕著。筋力・パワー・除脂肪量の増加。「より一般的ではないが、持久性能の向上」との記載もある |
| β-アラニン | 30秒〜10分の高強度運動。1日あたり約65mg/kgを日内で分割し、10〜12週継続 |
| 重炭酸ナトリウム | 約60秒の高強度で約2%改善。10分を超えると効果が落ちると明記。消化器症状はよく知られた副作用 |
| 硝酸塩(ビートルート) | 40分未満のTTで1〜3%改善。12〜40分の高強度・断続的なチームスポーツ型の運動では3〜5%。12分未満での利益は証拠が割れるとも明記 |
| カフェイン | 持久系。5〜150分のTTで確認(自転車・ランニング・ローイングなど) |
| グリセロール | ※IOC表に項目なし。AISは、摂取した水分の保持を助け、暑熱下などの長時間・高強度運動や飲水が制限される場面で利益があり得るとする |
条件が集まっているのはフルマラソンよりずっと短い側です。いちばん長いカフェインでも、この表がまとめている持久系タイムトライアルは150分(2時間30分)まで。市民ランナーの3〜5時間はその外側にあります(エリートのマラソンは2時間10分前後で、150分の内側に入ります。ここで比べているのは市民ランナーの完走時間です)。
ここで踏み込みすぎないための線引き
大事なのは、この表は「効果が確認された条件」を書いたものであって、「これ以外では効かない」と宣言したものではないということです。「5〜150分」も、この合意声明が持久系TTについてまとめた範囲であって、研究全体の上限ではありません。
反対方向の可能性も残っています。
- フルマラソンにも高強度の局面はあります。ラストスパート、起伏、集団のペース変化
- クレアチンやβ-アラニンがトレーニングの質(インターバルなど)を上げ、その積み重ねが結果として効く、という間接的な経路もあり得ます。IOC合意声明もクレアチンについて、筋力トレーニングやインターバルを介した適応に触れています
- 逆に、短時間で効いたからマラソンのラストスパートでも効く、と言い切ることもできません
つまりどちらも未確定です。言えるのは、「マラソンのタイムが何%良くなる」と断定できる直接の根拠は、これらの資料の中には見当たらない、というところまでです。
なおクレアチンには、持久系で不利に働き得る要素があります。水分保持による体重の増加です。42.195kmを運ぶ競技では、そこも判断材料になります。硝酸塩については、IOC合意声明は3日を超える継続摂取が「よく鍛えられたアスリートにとって有効な戦略になり得る」としつつ、そうしたアスリートでは効果が得にくいと同じ文で述べています。
関心の高い3つは、個別に書きました
ビタミンDについても一言だけ。IOC合意声明(2018年時点)は、多くのアスリートが年間のどこかで不足のリスクを抱えているとしつつ、何をもって不足とするかの血中濃度に合意がないこと、アスリート向けの補充ガイドラインは確立していないことを記しています。一般人口向けの維持量として800〜2000 IU/日が挙げられていますが、これを「ランナーが飲むべき量」と読み替えないでください。判断は検査と医療者に委ねる領域です。
陸連登録をして記録を狙う人へ ─ 確認先が変わりました
サプリメントは食品に分類されます。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が明記しているとおり、食品にはすべての原材料を成分表に記載する義務がありません。ラベルに書かれていない物質が入っている可能性があり、それが原因で違反になった場合でも、責任はアスリートが負います。JADAはその前提で「Food First」(必要な栄養はまず食事から)を掲げています。
確認の道具立ては、この数年で変わりました。
- 2019年3月31日: JADAのサプリメント分析認証プログラムが終了
- 後継として日本分析センターがSports Supplement Referenceで生産施設審査と製品分析の結果を公開
- 2025年3月31日: その分析サービスの受付が終了
- 2026年3月31日: 製品分析そのものが終了。以降、製品分析の最新の実施状況は同サイトでは確認できなくなります。ただし過去の結果は2028年3月31日までアーカイブとして公開されます
同サイトは、一部の製品が各社の情報公開へ移行したとして、味の素・大塚製薬・森永製菓の3社を案内しています。森永製菓は自社ページで、国際的なインフォームドチョイス認証を取得している(一部商品を除く)と説明しています。
つまり、このサービスに関しては、確認先が「共通の1か所」からメーカーごとの開示や国際認証へ移ったということです(2026年9月7日確認。国内の他の仕組みの有無までは確認していません)。数年前の記事を読んで「JADA認証を確認すればいい」と思っている人は、前提が変わっています。
⚠️ 認証を見るときの注意も、IOC合意声明が書いています。第三者監査は「低リスク」の製品を見分ける助けにはなるが、絶対的な保証にはなり得ない、と。加えて「一部商品を除く」という但し書きがある以上、ブランド全体ではなく、自分が使う製品がその対象に入っているかを確認する必要があります。認証は効果の証明でもありません。
混入の頻度について、正確に書いておきます
よく「サプリの約15%に禁止物質が入っている」と紹介されます。この数字はIOC合意声明にも出てきます。世界中から集めた600製品超のうち約15%に、表示のないプロホルモンが含まれていたという初期の研究です。
ただし同じ文書が、その直後に留保をつけています。「サプリメント汚染の真の頻度を把握することは難しい」とし、この研究も他の研究も「アスリートが実際に使うサプリメントを無作為に抽出したものではめったにない」と書いています。15%を「いま日本で売られている製品の15%」と読むのは、原典の書き方から外れます。
より実務的に効くのは、こちらでしょう。
- 汚染リスクは製品の製造国・製造者・種類・表示成分の幅によって大きく違う
- ビタミンCやマルチビタミン、ミネラルからも、まれにだが禁止物質が検出されている
- 物質によっては、健康影響が出ないほど微量でも検査で問題になり得ます。 IOC合意声明は、19-ノルアンドロステンジオンがわずか2.5マイクログラム混入すれば尿中代謝物が基準値を超え得るとし、この水準は「健康・安全の観点から許容されるとみなされる汚染レベルをはるかに下回る」と書いています
「体に害がない」と「検査で問題にならない」は別の物差しです。
結局、どの順番で考えるか
- 食事と、エネルギーが足りているか。JADAの「Food First」も、IOC合意声明の「まずスポーツ栄養の実践が十分であることを確保したうえで」も、同じことを言っています
- レース中の補給。ジェル・電解質・スポーツドリンクは Group A のスポーツ食品で、マラソンの時間帯に直接効く数少ない領域です。設計はエネルギー補給計画へ
- 不調があれば、原因の評価から。特定の栄養素へ直行せず、医療者に相談する。鉄は「飲む前に測る」
- その先に、パフォーマンス系。この記事の材料でまず候補に挙がるのはカフェインです。他が検討に値しないという意味ではなく、条件がマラソンにいちばん近いところまで確認されているのがカフェインだ、という理由です
土台を先に置く、という点では、このサイトがGPSウォッチについて「時計で速くはならない」と書いているのと同じ並びです。
更新履歴
- 2026年9月7日 ─ 初出
免責・情報の鮮度について
本記事は栄養・医学の助言ではありません。持病のある方、妊娠中・授乳中の方、薬を服用中の方は、摂取の前に医師や薬剤師にご相談ください。
分類と数値は2026年9月7日時点で、AIS Sports Supplement Framework の Group A〜D 各ページ、IOC consensus statement: dietary supplements and the high-performance athlete(Maughan ら、British Journal of Sports Medicine 2018)、JADA「アンチ・ドーピングとサプリメント」、Sports Supplement Reference の各公表内容を確認して記載しています。
⚠️ 確認日と、知見が更新された日は別です。 IOC合意声明は2018年のものです。その後の研究や指針の更新までは追えていません。AISの分類は改定されることがあり、アンチ・ドーピングの禁止表は毎年更新されます。最終的な判断は各機関の最新の公表内容で行ってください。
なお本記事にはアフィリエイトリンクを置いていません。「証拠のある成分は限られる」という内容と購入導線を同じページに並べると、記事の側が信用できなくなるためです。
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