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サプリメント栄養カフェイン

ランナーのカフェイン ─ 量とタイミング、そして飲みすぎても速くならない話

カフェインは、オーストラリアスポーツ研究所(AIS)の分類で Group A(強い科学的証拠がある)に入る成分のうち、持久系でもっとも支持が厚いものです。ランナーにとっては、数少ない「検討する価値がある」側に立っています。

ただし量の話になると、思っているのと逆のことが書いてあります。ある量から先は、増やしても効果が増えません。

この記事は栄養や医学の助言ではありません。持病のある方、妊娠中・授乳中の方、薬を服用中の方は医師や薬剤師にご相談ください。全体像はランナーのサプリメントにまとめています。

何が起きているのか

IOC の合意声明(Maughan ら、British Journal of Sports Medicine 2018)が挙げている作用は次のとおりです。

  • アデノシン受容体の拮抗
  • エンドルフィン放出の増加
  • 神経筋機能の改善
  • 覚醒度・注意力の向上
  • 運動中の「きつさ」の感じ方(主観的運動強度)の低下

最後のものが、ランナーにとっては実感に近いはずです。速く走れるようになるというより、同じペースがきつく感じにくくなる方向の働きです。

量 ─ 3〜6mg/kg。9mg/kg以上に増やす根拠はない

IOC合意声明が示すプロトコルは2通りです。

  • 無水カフェイン(錠剤・粉末)で体重1kgあたり3〜6mg を、運動の約60分前
  • 3mg/kg未満の低用量(原文は「約200mg」と併記)を、運動前と運動中に、糖質と一緒に

体重別に計算すると、こうなります。

体重3mg/kg6mg/kg
50kg150mg300mg
55kg165mg330mg
60kg180mg360mg
65kg195mg390mg
70kg210mg420mg

⚠️ 併記された「約200mg」を自分の体重に関係なく使うとずれます。体重60kgでは3mg/kg未満は180mg未満で、200mgは約3.3mg/kg。70kgなら200mgは約2.9mg/kgで収まります。mg/kg のほうを基準にしてください。

そして、この記述だけでは運動前と運動中にそれぞれ何mgずつか、合計いくらかまでは決まりません。1回量・運動を通した合計・その日の総量は分けて考える必要があります。

上限側の話

ここが実務的にいちばん効きます。IOC合意声明はこう書いています。

Larger caffeine doses (≥9 mg/kg BM) do not appear to increase the performance benefit, and are more likely to increase the risk of negative side effects, including nausea, anxiety, insomnia and restlessness. (より多い用量(9mg/kg以上)はパフォーマンス上の利益を増やすようには見えず、吐き気・不安・不眠・落ち着かなさを含む副作用のリスクを高める可能性が高い)

9mg/kg以上に増やしても利益は増えないように見え、副作用のリスクだけ上がる、という書き方です。レース前に「効かせたいから多めに」という発想は、この文書の範囲では支持されません。

効果が確認されている運動

IOC合意声明が挙げているのは次のとおりです。

  • 持久系: 疲労困憊までの運動時間、および5〜150分のタイムトライアル(自転車・ランニング・ローイングなど)
  • 運動中の低用量: 100〜300mgを運動開始15〜80分後に摂ると、自転車のTTを3〜7%改善
  • 短時間・高強度: 3〜6mg/kgを50〜60分前で、1〜2分の無酸素運動の完了時間・平均/最大パワーが3%超改善

ここで正直に書いておくと、まとめられている持久系TTの範囲は150分(2時間30分)までです。市民ランナーのフルマラソン3〜5時間は、この範囲の外側にあります。範囲の外だから効かない、という意味ではありません。この文書だけでは、フルマラソンのタイムがどれだけ変わるかは判断できないということです。

「利尿作用で脱水する」は、この用量では小さい

レース前のカフェインを避ける理由として、よく脱水が挙げられます。IOC合意声明の記述はこうです。

Caffeine is a diuretic promoting increased urine flow, but this effect is small at the doses that have been shown to enhance performance. (カフェインは尿量を増やす利尿作用を持つが、この効果はパフォーマンスを高めると示されている用量では小さい)

利尿作用そのものは否定されていませんが、パフォーマンス用量では小さい、という書き方です。脱水を理由に一律に避ける根拠にはなりません。

安全側の目安 ─ 日本には基準がありません

ここは分けて考える必要があります。パフォーマンスの話と、安全の話は別の物差しです。

日本の食品安全委員会のファクトシート(最終更新2018年2月23日)が出発点になります。まず前提として、

日本ではカフェインの一日摂取許容量(ADI)は設定されていません。 よく見る「1日400mgまで」は日本の基準ではなく、海外機関の値です。同ファクトシートが紹介しているものを挙げます。

機関健康な成人妊婦・授乳中
カナダ保健省1日400mg以下(マグカップのコーヒーで約3杯)妊婦・授乳婦・妊娠を計画している女性は1日300mg以下
EFSA(欧州食品安全機関)1回200mg(体重70kgで約3mg/kg)で急性毒性の懸念なし。習慣的には1日400mg以下妊婦は1日200mg以下。授乳中は1回200mg以下かつ1日200mg以下

妊娠中・授乳中の目安はカナダ(300mg)とEFSAで(200mg)割れています。低いほうを見ておくのが安全側です。

EFSAは運動前についても評価していて、通常の環境条件下における激しい運動の2時間前以内に200mgを摂っても健康リスクの懸念は生じない、としています。⚠️「通常の環境条件下」という条件がついていることに注意してください。暑い日のレースはその条件の外です。

数字の読み方

200mgや400mgは、そこを超えたら危険になるという境界線ではありません。 同時に、その内側なら誰でも平気という意味でもありません。ファクトシートには次のような記述もあります。

  • ドイツBfR: カフェインへの感受性には個人差があり、一部の人はコーヒー1杯でも睡眠障害を生じることがある
  • フィンランドEVIRA: 成人でも少量のカフェイン(体重60kgで約85mg)で睡眠障害が生じる可能性がある
  • オーストリアAGES(EFSA引用): 就寝直前の1回100mg(体重70kgで約1.4mg/kg)で、一部の成人に睡眠障害が起こり得る

レース前夜に眠れなくなるほうが、当日の数%より大きな損失になることもあります。

総量は足し算です

これも見落としがちです。その日の合計には、サプリだけでなく次のものが全部入ります。

同ファクトシートが挙げている含有量の目安です。

  • コーヒー1杯(200ml): 約100mg
  • エナジードリンク1本(330ml): 約105mg
  • コーラ飲料1本(500ml): 約65mg

これにカフェイン入りジェルが加わります。エネルギー補給計画で挙げた製品でも、1本あたり 25mg〜120mg の開きがあります。本数ではなく mg で数えてください。加えて、一部の風邪薬・頭痛薬にもカフェインが入っています

体重60kgのランナーが朝にコーヒー2杯(約200mg)を飲み、レース中にカフェイン入りジェルを3本(仮に各80mgで240mg)使うと、その日の合計は440mg。カナダ保健省やEFSAが挙げる1日400mgを超えます。 ここで比べているのは1日の総量です(IOCの3〜6mg/kgは運動の約60分前に摂る1回量の話なので、同じ物差しではありません)。意識せずに積み上がるのがカフェインです。

純カフェイン粉末は避ける

IOC合意声明のプロトコルは「無水カフェイン(錠剤・粉末)」と書いていますが、粉末を自分で量る方向には行かないでください

米国FDAは純カフェイン粉末について、消費者向けに販売されていることを警告し、そうした製品を避けるよう勧告しています。理由は濃度で、小さじ1杯でレギュラーコーヒー約28杯分に相当します。家庭の計量器具では安全に量れる代物ではありません。

試すのは練習で

IOC合意声明は、サプリメント全般について競技に近い条件の練習で十分に試してから本番で使うことを勧めています。カフェインについては、さらに具体的にこう書いています。

Lower caffeine doses, variations in the timing of intake before and/or during exercise, and the need for (or lack thereof) a caffeine withdrawal period should be trialled in training prior to competition use. (より低い用量、運動前および/または運動中の摂取タイミングの変化、そしてカフェインの休止期間が必要かどうかは、競技で使う前に練習で試されるべきである)

「レース前に何日かカフェインを断つべきか」も、試して決める対象に含まれている点が実務的です。断つべきだと断定していません。

現実的な順番としては、こうなります。

  1. 低い側(3mg/kg付近)から、ポイント練習で試す
  2. 胃腸・睡眠・動悸の出方を見る。合わないと分かったらそれで十分な収穫です
  3. 摂るタイミング(60分前/レース中)を、実際のレースに近い時間帯の練習で確かめる
  4. その日の合計を mg で把握しておく

レース当日に初めて量を増やすのは、いちばんやってはいけない試し方です。

更新履歴

  • 2026年9月7日 ─ 初出

免責・情報の鮮度について

本記事は栄養・医学の助言ではありません。カフェインの用量に関する記述は、健康な成人を対象とした各機関の目安を紹介したものです。持病のある方(特に心疾患・不整脈・不安障害など)、妊娠中・授乳中の方、薬を服用中の方は、摂取の前に医師や薬剤師にご相談ください。

数値は2026年9月7日時点で、IOC consensus statement: dietary supplements and the high-performance athlete(Maughan ら、British Journal of Sports Medicine 2018)、食品安全委員会「食品中のカフェイン」ファクトシート(最終更新2018年2月23日)、AIS Sports Supplement Framework を確認して記載しています。いずれも2018年の文書で、その後の研究や指針の更新までは追えていません。


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