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トレーニングテーパリングレース調整

テーパリング ─ レース前3週間、距離だけを削って強度は残す調整の設計

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10月から11月のレースを狙っているなら、調整に入るのは9月末から10月です。夏に積んだ距離を成績に変換できるかどうかが、この3週間で決まります。

「テーパリング=レース前に練習を減らすこと」というところまでは、たいていのランナーが知っています。それでも調整の失敗が減らないのは、減らす対象を取り違えるからです。距離を落としたつもりが強度も頻度も一緒に落ちていて、休んだはずなのに体が重いままスタートラインに立つ。テーパリングは休むことではなく、何をどれだけ減らすかを設計する作業です。この記事が扱うのはレース前の調整で、レース中の補給は補給の記事にまとめてあります。

テーパリングで実際にどれくらい変わるのか

効果の大きさから確認します。テーパリングの古典的なレビュー(Mujika & Padilla 2003)が複数の研究を横断して出した数字は、成績の改善は概ね3%、通常の範囲は0.5〜6.0%というものでした

研究室の被験者の話に見えるかもしれませんが、市民ランナーの実走データでも似た桁の数字が出ています。Strava に記録された158,117人のマラソン完走データを解析した研究(Smyth & Lawlor 2021)では、レース直前に減量週を連続して並べた「規律ある3週間のテーパリング」を行った群が、最小限のテーパリングしかしなかった群と比べて、完走タイムの中央値で5分32.4秒、率にして2.6%短いという結果でした。男女別では男性が2.38%、女性が3.19%です。

ただし数字を出したので限界も同じ段落に書きます。これは観測研究であって介入実験ではありません。著者自身が、長く規律あるテーパリングは良い成績と関連していたがすべてのランナーに当てはまるとは断定できない、という趣旨を限界として明記しています。解析されたのは走行距離の時系列、つまり量だけで、強度は解析対象に入っていません。故障・天候・その日の意欲といった要因も含まれていません。

それでも実務的な重みは無視できません。3時間30分の2.6%は約5分半です。サブ3.5を数分差で落としたことがある人なら、この5分半がどれくらいの幅かは説明不要だと思います。しかも上積みの原資は、新しい練習ではなくすでに済ませた練習の使い方です

減らすのは走行距離、減らさないのは強度と頻度

ここがこの記事の核です。27の研究をまとめたメタ分析(Bosquet ら 2007)の結論は、かなりはっきりしています。

A 2-wk taper during which training volume is exponentially reduced by 41-60% seems to be the most efficient strategy to maximize performance gains.

─ Bosquet L, Montpetit J, Arvisais D, Mujika I. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(8):1358-1365

2週間かけて走行量を41〜60%、直線ではなく指数関数的に減らす。そのあいだ、強度も頻度も変更しません。これが成績を最大化する戦略だ、というのが結論です。

2023年に出た新しいメタ分析(Wang ら、PLOS ONE、持久系アスリート174名を対象とした14研究)も同じところに着地しています。21日以内の期間で走行量を41〜60%漸減させ、強度と頻度は変えない方式が有効である、というものです。期間は8〜14日が最も良く、7日以内も15〜21日も有効だったと報告されています。

数字の食い違いについては正直に書いておきます。Mujika & Padilla 2003 は走行量の削減幅を「最大60〜90%」と記していて、Bosquet や Wang の41〜60%とは幅が違います。前者はレビューが扱った文献に現れた削減幅の範囲、後者はメタ分析が特定した最適域、と読むのが自然ですが、両論文の本文で定義まで突き合わせて確認できてはいません。どちらか一方を正解として選ぶことはできない、というのが現時点で言えるところです。ただし、削る対象は走行量であって強度と頻度には手をつけない、という点はどの研究でも一致しています

頻度についても目安があります。Mujika & Padilla は、頻度を減らすとしても20%以下だとしています。週5日走っていた人が週2日に落とすのは、この原則から明確に外れます。走る日を減らすのではなく、1回あたりを短くする。引き算の向きはこちらです。

ではポイント練習はどうするか。答えは「なくす」ではなく「縮める」です。閾値走が10分×3本なら8分×2本に、レースペース走が16kmなら10kmに。縮めるのは本数と距離であって、ペースではありません。ペースを緩めた瞬間、それは閾値走でもレースペース走でもない別の練習になります。刺激としては消えているのに、疲労だけは残る。これがいちばんもったいない削り方です。

ノルウェー式の記事で書いたとおり、閾値の総量を積み上げるのはベース構築から強化期の型です。レース8〜6週前にレースペース走や長距離走へ比重を移し、3週前からは今度は量を削る。積む時期と削る時期では、そもそも役割が違います。

完全休養を並べると、かえって遅くなる

「減らすなら、いっそ休めばいいのでは」という直感に正面から答えた実験があります。Shepley ら1992は、8週間のトレーニングを終えた中距離ランナー9名に、3種類の7日間テーパリングを全員に経験させるクロスオーバー設計で比較しました。

  • 強度を保ったまま量を大きく削る(HIT)
  • 強度を落として量は中程度に保つ(LIT)
  • 完全休養のみ(ROT)

疲労困憊までの走行時間は、HIT で+22%と有意に改善しました。LIT は+6%、ROT は-3%で、どちらも有意ではありません。最大酸素摂取量は3群とも変化しませんでした。

体の中で起きたことも報告されています。クエン酸合成酵素の活性は HIT で有意に上がり、ROT で有意に下がりました。総血液量は HIT で有意に増え、ROT では減っています。筋グリコーゲンは ROT と HIT の両方で有意に増えました。つまり、完全休養でもグリコーゲンは溜まります。しかしその裏で、有酸素性の代謝能力と血液を運ぶ容量のほうが落ちている。調整期は疲れが抜けるだけの期間ではなく、やり方を間違えれば失うものがある期間でもあります

規模の限界も書いておきます。9名、7日間、中距離ランナー、しかもトレッドミルでの疲労困憊走です。フルマラソンの完走タイムを測った研究ではありません。+22%を「フルが22%速くなる」と読み替えることはできません。ここから読み取るべきは倍率ではなく、3群の向きの違いのほうです。

短期のディトレーニング(十分な刺激が入らない期間)の知見が補助線になります。Mujika と Padilla が2000年にまとめたレビューでは、4週間未満でも、鍛えられた選手の最大酸素摂取量と血液量が急速に低下し、乳酸性作業閾値やグリコーゲン量も下がると整理されています。テーパリングとディトレーニングは地続きで、削りすぎれば後者に入ります。

だから正しい引き算は、休養日を並べることではありません。走る日は残したまま、1回あたりの距離を削ることです

ピーク週を100として、3週間で41〜60%まで削る

まず何週間かけるかです。Bosquet と Wang が示す最適域は2週間前後、Smyth の市民ランナーのデータでは3週間と4週間の規律あるテーパリングがともに良好で、4週間へ延ばしても3週間を超える上積みはありませんでした。フルマラソンは1回あたりの疲労が大きく、最後の長距離走からの回復も抱え込みます。3週間を基本線に置くのが素直です。なお Smyth のデータでは2週間と3週間で全体の約90%を占めていました。2週間でも外れではありません。

以下は、ピーク週(テーパリングに入る直前の週)の走行距離を100としたときの配分の目安です。この週別の配分そのものは研究が決めたものではなく、期間の3週間と最終的な削減幅の41〜60%から割り付けた数字です

走行距離(ピーク週=100)残すポイント練習
レース3週前75〜80レースペース走を1回、距離は短めに
レース2週前55〜65閾値走を1回、本数を減らして
レース週40〜50短い刺激入れを1回、あとは流し

実数に落とすとこうなります。

ピーク週の走行距離レース3週前レース2週前レース週
60km45〜48km33〜39km24〜30km
80km60〜64km44〜52km32〜40km

レース週を40〜50に置くと、ピーク週からの削減幅は50〜60%になり、メタ分析が示す41〜60%の範囲に収まります。落とし方を等分にしていないのは、Mujika と Padilla が、一段だけ落として水準を保つ方式よりも段階的に非線形へ落としていく方式のほうが成績に有利だと整理しているためです。最初の1週で大きめに落とし、後半は落とし幅を小さくする形になります。

各週に残す中身も具体化しておきます。3週前はレースペース走を1本、距離はピーク期の6割程度まで短くして、ペースは本番想定のまま。2週前は閾値走を1回、本数を減らし1本の長さも短くしてよいのですが、ペースは動かしません。レース週は短い刺激入れだけ。数分のレースペース走を1〜2本、あるいは100m前後の流しを数本で十分です。

この表を見て「少なすぎる」と感じたら、それは正常な反応です。ただしその感覚に従って距離を足すと、テーパリングの目的そのものが消えます。足したくなる衝動の正体は、記事の後半でまとめて扱います。

最後の長距離走をどこに置くかは、逆算で決まる

先に正直に書きます。最後の長距離走をレースの何週間前に置くのが最適かを直接検証した研究は、見つけられませんでした。日本語で見つかるのはコーチやランニングメディアの記事で、一次情報ではありません。

確認できているのは、レース前の2〜3週間が走行量を41〜60%減らす期間だ、というところまでです。ここから逆算すると、翌日以降を確実に潰す長距離走は、テーパリングが始まる手前、つまりピーク週の最後に置くのが辻褄が合います。レースが日曜なら3週間前の日曜です。これは逆算のロジックであって、研究の結論ではありません

理由は単純です。30km級の長距離走のあとは脚の張りが抜けるまでに数日、内容によっては1週間近くかかります。その回復期間がテーパリング期間と重なると、量は減らしているのに疲労は抜けていない、という最悪の組み合わせになります。テーパリングが引き受けられるのは、すでにある疲労を抜くところまでです。新しい疲労を足せば、その分だけ抜く時間が足りなくなります。

その長距離走を何kmにするか、どのペースで走るか、補給の練習をどう組み込むかは30km走の記事に渡します。距離を30kmに固定しない考え方もそちらで扱っています。

シューズの試走も同じ時間割に乗ります。カーボンシューズの記事では、本番までに履くのは2〜3回だけ、30km走の後半やレースペース走で1〜2回、直前の刺激入れで1回、という配分を挙げています。つまり本番シューズに足を慣らしておくのは、3週前までの仕事です。レース週に履くのは「もう知っている靴」であって、初めて下ろす靴ではありません。

レース週も走るのをやめない

レース週こそ Shepley の結果が効いてきます。走行量は3週間で最も少なくなりますが、走らない週にはしません

短い刺激入れを残す理由は、失われるものの側から説明できます。完全休養だけの週で下がったのは、クエン酸合成酵素の活性と総血液量でした。強度を保った群では総血液量がむしろ増えています。レース週に短くてもレースペースの刺激を入れておくのは、速さの感覚を思い出すという気分の話だけではなく、こうした生理的な状態を落とさないためでもあります。

直前3日は距離をさらに削り、質だけ残します。3日前に短い流しを数本、2日前は軽いジョグ。ここで新しい練習を足さないことがすべてです。トレーニングの適応には数週間かかりますから、ここで刺激入れの本数を増やしても当日の走力に間に合う見込みは薄く、増やした分の疲労だけが当日まで残る可能性があります。

前日の扱いについては断定を避けます。前日を完全休養にするか軽く走るかを直接比較した研究は、確認できませんでした。指導の現場では、前日に軽いジョグと流しを数本入れておくと当日の動き出しが軽い、という言い方をよく見ます。ただしこれは慣行であって、研究の結論として紹介できるものではありません。Shepley が示したのは7日間まるごと休んだ場合の話で、前日1日の是非に答えるものではない、という点も添えておきます。移動と受付で立っている時間が長くなる日でもあるので、前日に何をするかは体の状態と当日の段取りから決めるのが現実的です。

カーボローディングは枯渇期を置かない方式が主流になった

古い理解のまま止まっている人が多いところです。1970年代に Karlsson と Saltin が報告した方式は、3〜4日間の高走行量と糖質を絞った食事を組み合わせてグリコーゲンを枯渇させ、そのあとで走行量を大きく落としながら糖質中心の食事へ切り替える、というものでした。この枯渇期の記憶が、いまも「レース前に一度炭水化物を抜く」という話として流通しています。

現在の整理は違います。国際スポーツ栄養学会(ISSN)のポジションスタンド(Kerksick ら 2017)は、枯渇期を省略できると明記しています。

... highlights the ability to forgo a glycogen depletion phase and instead to simply reduce training volume for three to four days while simultaneously consuming a very high-carbohydrate diet [...] for one to three days to maximize intramuscular glycogen levels.

─ Kerksick CM, et al. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:33

練習量を3〜4日落としながら、同時に1〜3日だけ非常に高糖質の食事をとる。それで筋グリコーゲンは最大化できる、という整理です。

期間の短さを支持する実験もあります。持久系トレーニングを積んだ男性8名に、運動を完全に止めた状態で高GIの糖質を1日与えたところ(Bussau ら 2002)、筋グリコーゲンは95から180 mmol/kg(湿重量)へ有意に増え、その後2日続けても横ばいでした。被験者8名、運動を止めた条件での結果なので、そのまま自分に当てはめる話ではありません。それでも、3日かけないと積み上がらないという前提が必ずしも成り立たないことは示しています。

ここで見落としてほしくない接続があります。練習量を3〜4日落とすという条件は、テーパリングそのものです。カーボローディングとテーパリングは別々に走る2本のレールではなく、同じ期間を食事の側から設計したものにすぎません。走行量が落ちているのに食事だけ普段どおりなら、積み増しの機会を使っていないことになります。

運用としては、主食の割合を高め、脂質と食物繊維を減らす方向に寄せるのが扱いやすいところです。総量を増やすより皿の中の構成を変えるほうが、胃腸への負担が少なく失敗も少ない。研究で使われた体重あたりのグラム数は実験条件であって、体格や胃腸の耐性が違えば同じようには扱えません。レース中の補給計画は補給の記事にまとめてあります。あちらがレース中、この記事がレース前という分担です。

調整期に体重が増えるのは、うまくいっている兆候かもしれない

調整期にいちばん動揺させてくるのは体重計です。走行量を落とし、糖質の割合を上げれば、体重は増える方向に動きます。理由ははっきりしています。

Body water content increases during carbohydrate loading because 2.7-4-g water binds each 1 g of glycogen.

─ Shiose K, et al. J Appl Physiol. 2016;121(1)

グリコーゲンは水と一緒に蓄えられます。1gにつき2.7〜4gの水です。つまり、増えた分のいくらかは積み上がったグリコーゲンとそれに結合した水の重さで、狙いどおりに進んでいるときほど数字は増えます

ここで食事を減らす、あるいは走って戻そうとするのが典型的な失敗です。前者はグリコーゲンの積み増しを自分で止める行為、後者は削ったはずの走行量を戻す行為で、どちらもここまで書いてきたことを丸ごと打ち消します。

実務的にいちばん簡単な対処は、この時期だけ体重計に乗る回数を減らすことです。増えた数字を見ても判断を変える必要がない期間なので、そもそも見なければ迷いません。

前日と当日朝は、スタート時刻から逆算して決める

時刻の逆算に使える目安は、ISSN のポジションスタンドにあります。90分を超える運動の数時間前に高糖質の食事をとることが一般的な推奨だとしたうえで、研究で使われた代表的な条件として4時間前を挙げています。一晩絶食したあと運動の4時間前に高糖質食をとると、筋と肝臓のグリコーゲンがともに有意に増えたという報告(Coyle ら)が引かれています。

そしてレース前4時間を切ってからは、優先順位が一つ増えます。

... the athlete's priority should still be to maximize or maintain optimal levels of muscle and liver glycogen. In this respect, another priority becomes maintaining a favorable balance with the digestive system and avoiding the consumption of too much food or fluid before competition.

─ Kerksick CM, et al. 2017

グリコーゲンを高く保つことは変わらず優先事項だが、そこに、消化器と良い折り合いを保ち食べ過ぎ・飲み過ぎを避ける、という優先事項が加わる。前夜から当日朝にかけて量を増やしたくなるのは自然な心理ですが、レース4時間前を切ってからの増量は胃腸のリスクのほうが先に立ちます。

朝食を3〜4時間前に済ませるところから逆算すると、起床時刻はこうなります。

スタート時刻朝食起床の目安
8:304:30〜5:304:00〜5:00
9:005:00〜6:004:30〜5:30
9:305:30〜6:305:00〜6:00
10:006:00〜7:005:30〜6:30

この表は、朝食を3〜4時間前に済ませるという目安からの単純な算術です。起床時刻そのものを検証した研究は確認できていません。会場までの移動時間、交通機関の始発、荷物預けの締切でも動きます。逆算の出発点をスタート時刻に置く、という考え方だけ持ち帰ってください。

「スタート直前に糖質を摂ると低血糖になって動けなくなる」という話も根強くあります。ここは慎重に書きます。ISSN のポジションスタンドが引いているレビュー(Hawley と Burke 1997)は、運動の少なくとも60分前に糖質を与えた研究をまとめたもので、成績への悪影響は認められなかったとされています。ただしこれは60分前より手前の話であって、号砲5分前の1本を検証した結果ではありません。原典そのものも確認できていません。

言えるのは、この不安が語られるほどには裏づけが揃っていない、というところまでです。自分がどう反応するかは、練習で同じ時間割を一度なぞってみるのが確実です

前日の食事で新しいものに手を出さない理由も同じ線上にあります。翌朝の消化器の状態が、当日のすべてに乗ってくるからです。生ものや脂の多いもの、繊維の多いものは、当たったときの損失がリターンに見合いません。旅先のレースだと土地の名物が並びますが、それはゴール後に回すほうが得です。

そしてこの時期は、本番で使う補給を確定させるタイミングでもあります。調整期に入ってから新しいジェルを試すのは、変数を増やすだけです。銘柄はすでに練習で通したものから選び、あとはレース本数と、残った練習でなぞる分を切らさないようにしておくだけです。

すでに使っている銘柄を買い足すなら以下から。まだ銘柄が決まっていない段階なら、選び方は補給の記事にまとめてあるので、そちらで決めてから練習で試してください。

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4種とも1本45g・炭水化物26.3〜26.6g・約105〜107kcalとほぼ揃っています(公式)。違いは味とカフェインの有無です。

不安が引き起こす6つの行動を、先に潰しておく

調整期の失敗はたいてい、知識の不足ではなく不安から起きます。ここまでの内容を、その不安が実際にやらせる行動の側から並べ直しておきます。

急に距離を踏む。走り込みが足りなかったのではないか、という不安が原因です。ですがトレーニングの適応には数週間かかるので、3週間前から積んだ距離は当日の走力には間に合いません。間に合うのは疲労のほうだけです。

完全休養を並べる。休むほど回復するはずだ、という直感が裏切られるのが Shepley の結果でした。完全休養のみの群だけが記録を落とし、酵素活性と総血液量も下げています。走る日は残してください。

新しいシューズを下ろす。新品の反発に期待したくなりますが、これは研究の裏付けがあるかどうか以前の話です。当たれば数十秒、外せばマメと着地の違和感で数分から完走そのものを失う。損得が非対称なので、未知の変数を本番に持ち込まない、という判断になります。本番シューズの試走は3週前までに済ませ、レース週は慣らし済みの1足で通すのが安全です(カーボンシューズの記事)。

新しい補給を試す。理屈はシューズと同じで、失敗したときの損失が胃腸に出るぶん質が悪くなります。補給の記事では、本番と同じ銘柄・同じタイミングを30km走やペース走で最低2回試しておくことを挙げています。調整期は、決めたものを確認する期間であって選び直す期間ではありません。

体重を見て食事を減らす。増えている理由がグリコーゲンと水なら、減らしにいくのは積み上げたものを捨てにいくのと同じです。この時期の数字は、判断材料としては使えません。

ペースを落として距離を維持する。おそらく最も多い間違い方です。走行距離という数字を守りたい気持ちが、いちばん守るべき強度のほうを差し出させます。もう一度書きます。減らすのは距離であって、強度と頻度ではありません

主な出典

いずれも2026年8月15日に確認しました。

  • Mujika I, Padilla S. Med Sci Sports Exerc. 2003;35(7):1182-1187(PMID 12840640。抄録を Europe PMC で確認)
  • Bosquet L, Montpetit J, Arvisais D, Mujika I. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(8):1358-1365(PMID 17762369。抄録を Europe PMC で確認)
  • Wang Z, Wang Y, Gao W, Zhong Y. PLOS ONE. 2023(オープンアクセス全文)
  • Shepley B, MacDougall JD, Cipriano N, Sutton JR, Tarnopolsky MA, Coates G. J Appl Physiol. 1992;72(2):706-711(PMID 1559951。抄録を Europe PMC で確認)
  • Smyth B, Lawlor A. Front Sports Act Living. 2021(DOI 10.3389/fspor.2021.735220。オープンアクセス全文)
  • Mujika I, Padilla S. Sports Med. 2000;30(2):79-87(PMID 10966148。抄録のみ確認)
  • Kerksick CM, et al. J Int Soc Sports Nutr. 2017;14:33(DOI 10.1186/s12970-017-0189-4。オープンアクセスPDF)
  • Bussau VA, Fairchild TJ, Rao A, Steele P, Fournier PA. Eur J Appl Physiol. 2002;87(3):290-295(PMID 12111292。抄録を Europe PMC で確認)
  • Shiose K, Yamada Y, Motonaga K, Sagayama H, Higaki Y, Tanaka H, Takahashi H. J Appl Physiol. 2016;121(1)(抄録を Europe PMC で確認)

免責・情報の鮮度について

  • 本記事は公開されている研究論文・スポーツ栄養のポジションスタンド・一般的なトレーニング理論に基づく情報提供であり、医学的助言ではありません
  • 調整の効き方には個人差があります。故障歴や持病がある場合、体調に不安がある場合は専門家にご相談ください
  • 引用した研究の対象者は、少人数の鍛錬者や中距離ランナーなど、条件が読者と異なる場合があります。数字をそのまま自分に移せるものではありません
  • 本文で確認できていないと書いた事項は、原典を確認できた時点で追記・修正します

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